老人性肺炎
高齢者の直接的な死亡原因として最も多い疾患は老人性肺炎です。そして、そのほとんどが『誤嚥』によって起こります。
『誤嚥』とは食物が誤って気管に入ることなのですが、
本来なら気管に食物が入ると私達の体は反射的に咳こんだり、むせたりして吐き出そうと働きます。
皆さんも気管に誤って食べ物が入ったとき、ひどく苦しい思いをされたご経験があると思います。
ところが、高齢者になるとお口の中の物を飲み込んだり、咳をしたりする反射運動が低下して、
気管に食物がはいりこんだことを感じなかったり、感じたとしても咳で吐き出すことができなかったりすることがあります。
それが原因で肺炎になってしまうことがあるのです。
また、最も怖いのは不顕性誤嚥です。
これは睡眠時に気がつかないうちにお口の中の細菌が気管や肺に入ってしまうことです。
こちらの方が老人性肺炎の原因になることが多いと言われています。
お口の中には300種類以上の細菌が住みついています。
これらの細菌にはお口の中で悪さをしなくても他の臓器にいくと暴れ出すものがいます。
また、肺炎を起こす菌の中には歯周病原菌が数多く含まれているとも言われています。
そう考えると、お口の中を不衛生にしたまま就寝することがどんなに危険なことかよくお解りになると思います。
そして高齢期を迎える前から専門家による口腔管理を受けること、またご自身でもそれを確実に行うことが重要だといえます。
話は少し変わりますが近年の国民死因順位をご存知ですか?
1位 悪性新生物(ガン)
2位 脳血管疾患
3位 心疾患
4位 肺炎および気管支炎
(このうち92%は65歳以上で占められています。)
5位 不慮の事故および有害作用
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(2000年調査)
と続きます。1〜3位までは「まあ、予想通り」と思われた方々も多いのではないでしょうか?
そしてこれらの病気は未然に防ぐことがなかなか難しいものであるということもご存知だと思います。
しかしながら4位の肺炎・気管支炎はお口の中ケアを心掛けるだけでも随分と高い確率で防ぐことができるのです。
高齢化社会が進む中でこの順位は私達に多くのことを示唆しているように感じます。
誰もが迎える老いを豊かなものにし、いずれの場所で生活しようとも『生活の質・生命の質』が
常に保たれるよう私達は患者さんと頑張っていきたいと思っています。
*近年、脳血管および心疾患と歯周病との関連も明らかにされています。
それについては、またあらためてお話したいと思います。